企業における不正への対応〜不祥事対応の⽬標とは︖〜
1 はじめに
新年度が始まり4月から5月にかけては、⼈事異動などをきっかけに「社内で不正が発覚した」とご相 談を受けることもよくあります。
<統計>
統計としては、例えば、デロイトトーマツ の「Japan Fraud Survey 2018-2020 企業の不正リスク調査⽩書」 (上場企業303社が回答。2018年調査)によれば、「過去 3 年間で不正事例あり」は 46.5%であり、発覚した不正順 位は、以下となっております。
- 1位 横領(窃盗、不正⽀出等)
- 2位 会計不正(架空売上、費⽤隠蔽等)
- 3位 情報漏洩
- 4位 データ偽装(品質、産地、信⽤情報等)
不正の対応を誤ると、事態の収拾がつかなくなり、企業が 深刻なダメージを負いかねません。近年でも、例えば、⼤⼿ ⾃動⾞メーカーでデータ改ざんが発覚した件では、不正発覚 により商品の信頼性とブランドイメージが⼤きく棄損し、結 果として売上が40%減少したと⾔われております。
そこで、今回は企業における不正対応とそのポイントにつ いて取り上げたいと思います。
2 不正の種類
(1)不正の種類
企業における社内不正ですが、実際は、業種や企業規模な どによっても様々です。
例えば、現⾦を取り扱う業種(例 スーパー、飲⾷店、販 売店等)では、現⾦トラブルが今なお後を絶ちません(いわ ゆる「現⾦差異」事案)。不正内容としても、重⼤な法令違 反から軽微な内規違反まで様々ですし、また、不正は、従業 員の故意により発⽣する場合だけでなく、過失により発⽣す る場合もあります(データの誤⼊⼒など)。
業種や事業規模を問わない典型的なものとしては、以下の ようなものが挙げられます。
【内部的な不正】
- 経理(横領、窃盗、背任)・・・上記ランキングの⾸位 • 業務の虚偽報告(書類改ざん・データ改ざん・不良やリ コール隠しなど)
- 労務不正(各種ハラスメントなど)
【対外的な不正】
- 顧客情報、機密情報流出
- リベート
3 不正発覚のきっかけ
不正発覚のきっかけは様々です。
社内を契機とするものとしては、同僚や上司による発⾒、 同僚などによる内部通報、内部監査、不正者の⾃⼰申告など が典型です。
社外を契機とするものとしては、外部からの情報提供、マ スコミ等による報道、SNSによる公表や炎上、取引先から損 害賠償請求を受ける、⾏政調査、司法⼿続(訴訟提起)など が典型です。
統計としては、消費者庁の「平成 28 年度 ⺠間事業者に おける内部通報制度の実態調査報告書」によれば、社内の不 正発⾒の端緒としては以下の順序となっています。
- 1位 従業員等からの内部通報(通報窓⼝や管理職等へ)
- 2位 内部監査(組織内部の監査部⾨による監査)
- 3位 職制ルート(上司の⽇常的業務チェック、同僚等か らの業務報告等)
- 4位 取引先、⼀般ユーザーからの情報
企業が社内の不正をきっかけとして深刻なダメージを受け ないようにするためにも、不正の事実が外部に漏れる前に情 報を把握しておく必要があります。
4 不正のリスク
企業で不正が⽣じた場合、通常、以下のようなリスク・デ メリットが発⽣する可能性があります。
- ①法的責任(損害賠償等の⺠事責任、責任、⾏政処分等)
- ②不正の連鎖による社内秩序の悪化
- ③社外における信⽤の低下・⾵評被害
不正を起こした企業は社会の厳しい批判を浴びるだけでな く、同時に、不正が⽣じた際の企業の取り組み姿勢にも厳し い視線が向けられます。このため、企業としては、⽇ごろか ら不正の防⽌に努めるのは当然ですが、不正が⽣じた場合に 適時適切に対応することが重要となります。
5 不正の調査⽅法
発覚した不正の調査⽅法としては、客観的な資料の収 集・検討や、関係者からのヒアリングが挙げられます。
(1)客観的な資料の収集・検討
関係者へのヒアリングを⾏う前に、請求書や領収書、⽇ 程表、議事録、メールなどの紙媒体・電⼦媒体の客観的資 料を収集・検討し、事実関係を整理します。
客観的な資料は、それ⾃体重要な証拠となるばかりでな く、ヒアリングの実施前にこれらの資料を収集・検討する ことにより、ヒアリングをより有効に⾏うことが可能とな るため、⾮常に重要です。
(2)関係者からのヒアリング
客観的資料によって整理した情報を基に、関係者へのヒ アリングに向けて質問事項を作成します。聞き漏らしの防 ⽌のほか、円滑にヒアリングを⾏う上でも質問事項をまと めておくことは重要です。
関係者のヒアリングにおいては、「いつ」、「どこで」、 「誰が」、「何を」、「なぜ」、「どんな⾵に」といった 「5W1H」をしっかり抑えるようにする必要があります。
(3)不当な調査の禁⽌
調査担当者が脅迫的な⾔葉を⽤いてヒアリングを⾏うな どの不当な調査が⾏われた場合、得られた供述(=証拠) の信⽤性が低下するばかりでなく、調査担当者個⼈の⺠事 的・刑事的責任が問われる可能性があります。
また、調査担当者が不当な調査を⾏ってしまうと、調査 対象者への懲戒処分にも影響が出てしまいます。 さらに、企業としても、不当な調査に対し、使⽤者責任 を問われたり、職場環境配慮義務違反として債務不履⾏責 任を問われたりする可能性があります。
このため、不正の調査に当たっては、調査が適切なもの となるよう細⼼の注意を払う必要があります。
6 不正対応のポイント
参考として、上場会社における多くの不祥事が表⾯化し たことを受けて、⽇本取引所⾃主規制法⼈は 2016 年 2 ⽉ に「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を、 2018年3⽉に「上場会社における不祥事予防のプリンシプ ル」策定・公表しています(本稿ではプリンシプル(原 則)の紹介にとどめます)。
「対応プリンシプル」4つの原則
- ① 不祥事の根本的な原因の解明
- ② 第三者委員会を設置する場合における独⽴性・中⽴ 性・専⾨性の確保
- ③ 実効性の⾼い再発防⽌策の策定と迅速な実⾏ ④ 迅速かつ的確な情報開⽰
「予防プリンシプル」の6つの原則
- ① 実を伴った実態把握
- ② 使命感に裏付けられた職責の全う
- ③ 双⽅向のコミュニケーション
- ④ 不正の芽の察知と機敏な対処
- ⑤ グループ全体を貫く経営管理
- ⑥ サプライチェーンを展望した責任感
要するに、不正の原因を解明し、客観的・中⽴的・迅速 に対応するとともに、再発防⽌策を講じることにより企業 価値の棄損の防⽌と価値の再⽣を図ることが重要と⾔えます。
7 当事務所の⽀援
そもそも、不祥事対応の⽬的ですが、⼀⾔で⾔えば、 「不祥事によって乱された企業秩序を修復しつつ、損失、 信⽤棄損を最⼩化し、信頼回復を図ること」といえます。 なお、リスクやデメリットばかりが取りだたされやすい 不祥事ですが、興味深いデータとして、「企業の対応いか んによっては、企業を好評価することもある」といったア ンケート回答が約40%もあったとのことです(トライ ベック・ブランド戦略研究所)。
こういった意味でも、不祥事対応は重要といえます。
事業展開をしていく中で、ある種「不祥事は必ず発⽣す る」という前提に⽴つ⽅が健全ともいえます。 当事務所では、企業の不正に関する初動対応(調査な ど)、被害の回復、法的観点を踏まえた再発防⽌策の策定 など様々な⽀援を⾏っております。
社内で不正が⽣じた場合、迅速かつ的確な対応が必要と なります。不正が発覚した場合に何をすべきか、どのタイ ミングで弁護⼠等の専⾨家に相談すべきか分からないとい う声もよく聞きますので、どうぞ早めに当事務所にご相談 下さい。