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問題社員タイプ③ コミュニケーション型(協調性不足ーUncooperative)

コミュニケーション型(協調性不足タイプ)とはどんなタイプか。

昨今、コロナ禍における採用方法も変化しておりウェブ面接も一般的になってきました。また、働き方の変容・多様化などが生じ、テレワークやフレックス勤務等も一般化しております。また、昨今の働き方改革によって社会全体の意識も変容しております。

 「多様化」はもちろん良い側面もありますが、逆に言えば、それぞれが考える「当たり前」も変容し、その分、ミスマッチが生じやすくなったともいえます

 このような状況において、雇用にミスマッチが生じていることなどを背景に、企業が協調性不足の社員を抱えることが多くなっています。このような社員に注意指導をしても、功を奏しないことがあり、企業側としては、就業規則の解雇理由である「協調性がないとき」を根拠として、社員の退職勧奨、最終的には解雇せざるをえないか検討することになります。

 他方で、そもそも解雇はハードルが高いのではないか、「協調性不足を理由とするなら、協調性不足のエビデンスを」と言われるが、「協調性不足のエビデンス」と言われても、どうしたらよいのか分からないなどの疑問や不安が生じます。どう対応すべきでしょうか?(実際に、「協調性を欠いている問題社員に辞めてもらいたいのだが、どうすればよいか。」というご相談はよくあります)

企業がいきなり解雇に踏み切るケースは少ないと思いますが、最終的に話し合いでも解決しない場合は、解雇を見据えた段取りを踏むことが基本です。

(1)解雇ルール(労働契約法第16条)

 法令で定められた解雇のルールは一言でいえば、「合理的理由があり、社会的に相当であること」です(労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています)。

 普通解雇のリーディングケースとしては、高知放送事件(最判S52・1・31。勤怠不良事案)が有名です。

 また、勤務態度不良に関連するものとして、小野リース事件(最判H22・5・25)があります。この事件では、勤務態度に問題(飲酒癖、深酒)があること、取引先からの苦情があること、社長から注意されても飲酒を控えることがなかったこと、本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったことなどから、解雇を「有効」としました。

(2)参考裁判例

 

■解雇無効例

 コミュニケーション型(協調性不足タイプ)に関し、解雇等を無効とした典型例をいくつか取り上げます。

▶①恵和会宮の森病院事件(札幌地判H16・11・10)

 病院の事例で「笑顔がなく、不満そうである、疲れが見えやる気が感じられない」といった従業員の事例です。 以下のような点などを理由に「解雇無効」とされました。「雇用契約の更新時に行われる考査の結果、雇止め直近の2回の考査で、患者対応についての項目で最低の評価を受けていたが、雇止めの前年の考査では合格点に達しており、勤務成績が向上しており、上記考査の低下は、その後所属長に就任して評価基準が上がったことが影響していると考えられること」

▶②大和倉庫事件(大阪地決H4・9・8)

 駐車場の監視・誘導などを業務とする従業員で、周囲とコミュニケーションをうまくとらなかった事例です。 以下のような点などを理由に「解雇無効」とされました。

「駐車場に出入りする車両の監視・誘導と料金徴収という比較的単純な作業を主体とするものであって、従業員間の緊密な協調がなければ業務遂行が不可能となる類のものと認められない・企業側に、当該問題社員の態度を改善するよう注意等を与えたり、人間関係の調整・修復を図ったりするなどの努力の形跡が窺われない」

③スタッフマーケティング事件(東京地判R3・7・6)

 家電量販店の派遣販売員の事案で勤務態度が悪く、周囲との関係が悪化していた事案です。

 この事例では、「指導がなされた状況や指導を受けた社員の対応に関する証拠がなく、当該社員が勤務態度等について指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかった事実を認めることはできない」などを理由に、雇止めが無効とされました。

 

■解雇有効例

 他方、解雇等を有効とした例は、次のとおりです。

▶①ユニスコープ事件(東京地判H6・3・11)

 自己のやり方に固執するあまり、会社において定められた仕様に従わない態度をとるなどした従業員の事案です。

 約1年5か月の間、勤務態度の問題点を度々指摘して注意を喚起したり、勤務体制に配慮する等して非協力的勤務態度の改善を求めたにもかかわらず、かえって反抗手段としてタイムカードを押さなかったり、無断欠勤をするなどしたとして、解雇を有効としました。

▶②日本火災海上保険事件(東京地判H9・10・27)

 自己中心的、独断的で、同僚や代理店の都合を顧みずに自己の都合を優先するなど協調性に欠け、身だしなみがだらしなく、態度も横柄であり、女性社員にわざと接触するなどして職場内の雰囲気を悪化させるなどの問題を有する社員に対し、担当する代理店の数を減らしたり、営業所を異動させたりしたものの勤務態度は改善されず、対外的な折衝の少ない仕事を担当させても協調性不足によって同僚のひんしゅくを買い続けた事案について、解雇を有効としました。

▶③セコム損害保険事件(東京地判H19・9・14)

 採用当初から、社長を含む上位の職制に対して批判的な言辞を繰り返し行い、自分の信念、考え方に固執して周囲の人間を一方的に批判し、また、上司や同僚、会社そのものについて、自分自身が正しいという考え方のもと、周囲が改めるべきであるという批判を繰り返し行った社員に対し、通告書による指導、人事部門や部長からの指導、警告、厳重注意、面談による指導が複数回行われたものの改善しなかった事案について、解雇を有効としました。

(3)協調性不足のエビデンスは?

 協調性不足を理由とする解雇等に関する裁判例を見ますと、ポイントは、「①協調性不足≒債務不履行」の具体的な事実に加え、「②解雇回避措置」をどの程度講じたかにあるといえます。

 要は、裁判官が「これは問題だ」と思えることを前提に、「会社もきちんと指導を繰り返した。部署異動などできることもした」ということを立証することが重要です。

 最も苦慮するのは、協調性不足のエビデンスです。

 とても抽象的ですが、問題行動の内容(発言やメールなど)とともに、注意指導をタイムリーにしたこと(指導書、メール等)が重要視されているといえます。

 問題発言のエビデンスといっても、録音などをすることには限界がありますので、実際は、注意指導をタイムリーにしたこと(指導書、メール等)をきちんと履歴として残すことが重要といえます。「注意指導があったのは、問題行動があったから」と逆算できる面も多々あると思います。

 このようなきちんとした指導・対応をしていれば、問題社員本人との話し合いや退職勧奨をする段階になってもお互いに納得感の出やすい状況になるといえます。

(4)その他ー試用期間中の本採用拒否

 なお、「協調性不足」は、試用期間中に問題となることもよくあります。

 例えば、空調服事件(東京高判H28・8・3)において、東京高裁は、全体会議において「試算表や決算書が間違っている」旨の発言をした試用期間中の社員について、このような行動は、労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当する従業員としての資質を欠くと判断されてもやむを得ないなどとし、試用期間中の解雇を有効と判示しました。

 タイプ①能力不足型よりも試用期間による対処になじみやすく、通常の解雇よりも解雇が有効とされる可能性が相当高くなるので、入社間もない時期の場合は活用を考えることも重要です。

 

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