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問題社員タイプ⑤ 職場規律違反・非違行為(特に会社批判型 attacking)

職場規律違反・非違行為(特に会社批判型 attacking)とはどんなタイプか。

 この類型は、他の類型と比べ、「自分は正しい」といった感覚が強く、その矛先が、上司や会社に向くケースです。昨今は、社内のグループワークツール・グループウェアなどに投稿する等も目立っております。

 以下、具体的に見ていきましょう。

(1)「会社批判」の例

 会社批判というと、かつてはビラ撒きやメールでの批判が典型でしたが、近年、情報発信の容易さからか、社内のグループワークツール・グループウェアや、個人のブログ、ネット掲示板、SNS、X(旧Twitter)などに書き込まれるケースが増加しています。

(2)会社にとってのリスク

 「会社批判」を放置すると、社内的には、社員の士気の低下、企業秩序の悪化、生産性の低下、退職者の増加などに、社外的には、風評被害のリスク、採用力の低下などにつながりかねないですので、適切な対応が求められます。

 会社側としては、もちろん、白昼堂々なされる会社批判・誹謗中傷を看過することはできず、会社批判を繰り返す社員に退職してもらいたいと考えるでしょう。ただ、やはり、解雇事由に当たるのか、解雇はハードルが高いのではないかなどの疑問や不安が生じるのではないでしょうか。会社批判を繰り返す社員にどう対応すべきでしょうか。

 以下、会社批判型の主な裁判例を見ていきましょう。

 

◆参考裁判例

(1)解雇有効例

①セコム損害保険事件(東京地判H19・9・14)

 採用当初から、社長を含む上位の職制に対して批判的な言辞を繰り返し行い、自分の信念、考え方に固執して周囲の人間を一方的に批判し、上司や同僚、会社そのものについて、自分自身が正しいという考え方のもと、周囲が改めるべきであるという批判を繰り返し行った事案について、「他の懲戒処分を経ずに懲戒解雇されたが、通告書による指導、人事部門や部長からの指導、警告、厳重注意が複数回なされ、面談による指導も複数回行われたが、改善されなかった」として、解雇を有効としました。

②日本臓器製薬事件(大阪地判H13・12・19)

 医薬品の輸入・製造・販売を目的とする被告会社の支店長の地位にあった原告らが、会社の経営が危機的状態にあることを強調した「会社新生ビジョン」を作成するなどし、社長に直接手渡すとともに、管理職に送付し、これを応援する社員の署名を集めることを依頼した事案について、「署名活動は経営陣の更迭を求め、別人を擁立する目的で行われたもので、各支店の最高責任者であるにもかかわらず、多数の社員を巻き込み、会社の秩序を乱す行為」であるとして、懲戒解雇を有効としました。

③佐世保重工業事件(東京地判H8・7・2)

 船舶の製造修理などを業とする会社において、幹部職員らが、取締役人事に関し、特定役員の就任阻止、新社長ら経営陣の失権を目的として嘆願書、連判質問状の提出などを行った事案について、「経営陣人事に不当に介入し、経営権を侵害するのであって、許されるものではない。企業秩序に反する社会的相当性を欠く行為であり、行為態様も正当なルートを通じて進言するといったものでない」として、懲戒解雇を有効としました。

(2)解雇無効例

①クレディスイス事件(東京地判H30・11・29)

 解雇無効判決を得て復職後、3年以上にわたり、自身の処遇が違法であるなどと代表取締役らに絶え間なく述べたため、法務本部長や社内通報制度を通すように指示されたにもかからわず、その5日後に再度メールの送信などをしていた事案について、「具体的・現実的な損害につながったとまではいえない」として懲戒解雇を無効としました(普通解雇は有効)。

②A会計事務所事件(大阪地判H30・11・22)

 会計事務所の社員が、掃除やお茶出しなどについて「なぜ、私がしないといけないのか」、「就業規則のどこに書いてあるのか」などとほぼ毎日述べていた事案について、「言動の中には必ずしも適切かつ相当とはいえないものもあったと認められるものの、それぞれの問題行動自体は、重大かつ深刻な内容であるとはいえず、被告に対して個別具体的な損害等が発生しているとは認め難い」、「法的根拠等を示した上で、適切な注意指導をしていれば、改善する可能性もあった」として解雇を無効としました。

③中央林間病院事件(東京地判H8・7・26)

 病院長が、「この病院には、学会認定の指導医もいない。若い医師が長くいるようなところではない」、「理事長は騙されやすい性格である」、「病院の財務、経営が悪化している」などと話した事案について、「この程度で信用棄損や誹謗中傷にはあたらない。経営状態悪化は周知の事実」として懲戒解雇を無効としました。

 

◆ポイント

 裁判例を見ると、「経営陣の更迭・交替要求」の事案では、解雇が有効とされる例が目立ちます。

 他方、「会社批判・誹謗中傷」(のみ)の事案の場合、無効とされる例が多いようです。

 「なぜ、裁判所は会社批判に寛容なのか?」といった疑問も生じるところですが、要点をまとめますと、以下のことが言えるかと思われます。

(1)バッドプラクティス

  • 批判内容のみを問題視(批判内容の真実・真実相当性、批判の目的、手段・態様の相当性といった不利な枠組みとなりがちです)
  • 業務命令と要請・依頼が明確でない、ルールがあいまい、ルールを説明しない
  • 会社批判の結果が重大とは言い難い、個別具体的な損害が発生していない
  • 会社批判の内容が会社の違法部分、改善措置を指摘
  • 懲戒の段階を踏んでいない
  • 解雇の時機を逸している

(2)グッドプラクティス

  • 更迭主張の証拠を確保 
  • 適切な注意指導歴・処分歴
  • 予備的に普通解雇を主張し、認められている

 要は、以下ががポイントと言えるでしょう。

 ①就業規則や業務命令により問題となり得る違反行為を明確化し、指摘すること

 ②批判内容そのものではなく批判がなされたことにより生じた結果を重視すること、会社批判を繰り返す社員に対する注意指導を怠らず、反省・改善可能性を追求すること

 ③最終的に懲戒解雇を発令するに当たっては、普通解雇も組み合わせること

 もちろん、むやみな会社批判が許されるはずもありませんが、対応を間違えると、(懲戒)解雇が無効となるなど、さらなる被害ともなりかねません。

 適切かつ毅然とした対応が重要です。

 

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