問題社員タイプ① 能力不足型(勤務成績不良・Low performance)
能力不足型とはどんなタイプか。
営業職が典型的ですが、バックオフィス系でも、仕事のクオリティーが十分でないことが生じがちですので、業界・業種を問わず生じる類型です。
昨今、典型的に以下のような状況が生じがちです。
①コロナ禍で採用方法が変化し、ミスマッチが増えている
②注意指導しようにも、テレワークが多く、功を奏しない
③本人へ退職勧奨もやむを得ないと考えている
④就業規則にも、解雇理由として「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」と書いており、正に該当するのではないかと思う
他方で、以下のような声も聞こえてきます。
・解雇のハードルはやはり高いのでは?
・「能力不足( 「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」 )を理由とするなら、能力不足のエビデンスを」と言われるが、「能力不足のエビデンス」と言われても、どうしたらよいのか?
では、実際、退職(解雇)やむなしの状況に、どのような対応が望ましいのでしょうか?
解雇のルールは労働契約法第16条に規定されており、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。
普通解雇のリーディングケースとして、高知放送事件(最判S52・1・31。勤怠不良事案)が有名です。いわゆる「勤怠」の事案ですが、普通解雇のリーディングケースです。
これは、寝坊による2度の遅刻を理由とするアナウンサーに対する解雇事案に関し、最高裁は、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」と判示しました。
他の裁判例も見ていきましょう。
▶(1)解雇有効例
①フォード事件/東京高判S59・3・30
人事本部長として中途採用した者(月額75万円)を約半年後に解雇した事案で、人事本部長という職務上の地位を「特定した雇用契約であって、原告に特段の能力の存在を期待して中途採用したという本件特殊性」を指摘し、業務履行や効率が極めて不良かまでを判断せず、当該地位に要求された基準を検討すれば足りるとして、解雇を有効としました。
②ヒロセ電機事件/東京地判H14・10・22
業務上必要な英語能力、品質管理能力を備えた即戦力と判断して品質管理部の主事として中途採用した者(月額35万円)を4か月後に解雇した事案で、「職歴、特にN社での勤務歴に着目し、主事1級という待遇で採用し、原告もそのことを理解して雇用されていた」、「新卒採用と異なり最初から教育を施したり、適性がない場合に全く異なる配転を検討すべき場合でない」として解雇を有効としました。(指導期間5か月)
③学校法人A学園(試用期間満了)事件/那覇地決R1・11・18
Xが、学校法人であるY社に日本語教師として採用され(試用期間3か月)、試用期間延長(+3か月)後の試用期間満了時に、主としてコミュニケーション能力の不備を理由に解雇された事案で、コミュニケーション能力という抽象的な能力の議論であったものの、(エビデンスのある)指導を繰り返し、改善が見られず、かつ、試用期間が満了したとして有効としました。
▶(2)解雇無効例
④セガ・エンタープライゼス事件/東京地決H11・10・15
「成績下位10%未満」、「クレームも認定」、「配転もした」事案について、就業規則における解雇事由が「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、このような事由に匹敵するような場合(=
平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないとき)に限って解雇が有効となると解するのが相当と判示し、解雇を無効としました。
⑤オープンタイドジャパン事件/東京地判H14・8・9
「韓国企業出張後に韓国企業への対応が遅れ、不信感を招いた」、「1ヶ月に6社しか訪問していない」、「月間販売目標4社のめどがたっていない」、「英語力が期待する水準にない」、「指導期間2か月余り」といった事案について、原告は被告から業務遂行を命じられておらず業務遂行状況が不良であったと認めることはできないこと、また、雇用後2か月弱の間に職責を果たすことは困難であったことなどから、解雇を無効としました。
所感
解雇無効の着眼点としては、以下のような点がいえます。
- パフォーマンスに関する評価制度がない・共有されていない(ブルームバーグ事件)
- 会社が問題社員を注意指導をせず、実質放置している(セガ事件・ブルームバーグ事件)
- 問題社員の能力が不足していることのエビデンスがない(セガ事件)
- 解雇の前に降格、配置転換等のプロセスを経ていない
実務のポイント
能力不足型事案の特徴は、「待遇と業務レベルのミスマッチ」といえます。
他の類型(例:勤怠不良・メンタル・私的行為等)に比べて、「待遇」や「業務・配置」(縦軸)という要素も重視され、「雇用解消やむなしか」(横軸)だけでない特徴があります。それゆえ、降格、配置転換や減給などのプロセスの丁寧さを要します。
これらの観点で、重要となるのは、成績を改善するための「指導経過」と「関連証拠(指導歴等)」です。
すなわち、「「問題」を把握し、それを改善・指導し、それでも改善しなかった」という経過、証拠(指導歴)が重要といえます。
ある程度、丁寧さと根気も必要とはなりますが、最終手段として、雇用終了(解雇処分など)も決して不可能ではありません。
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