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長時間労働に対する裁判所の見解

2.長時間労働紛争に関する裁判所の見方

個別紛争解決制度(概略)

司法統計

労働審判の新受件数(全国地裁) (労)事件

平成18年   877件(東京258)

平成19年 1494件(485)

平成20年 2052件(711)

平成21年 3468件(1140)

平成22年 3375件(1053)

平成23年 3586件(1021)

平成24年 3719件(991)

平成25年 3678件(973)

平成26年 3416件(983)

平成27年 3679件(1066)

 

∟全国で約3000件超

  東京で約1000件

労働審判の運用と実情

  • 回数制限(原則3回まで。労働審判法15条2項)・・・平均70日
  • 期日厳守
  • 審判官:任期2年。非常勤(事件毎)。労使団体(連合・全労連、経団連傘下等)からの推薦
  • 事前評議 第1回開始前の30分程度前から裁判官と審判官で
  • 労組を当事者とする解決には用いることができない
  • 申立手数料 民事調停に準ず(印紙代1~3万円程度。例:500万円請求、1万5000円)  実費は相当控えめ
  • 残業代請求事案は、本来「なじまない」と言われていたが(座談会、山口均裁判官)、実際は数多く申し立てられている。

 

  • 終局事由 (2009年~2013年 1万4952件)

  調停成立     70.4%

  労働審判     17.8%←異議率60.5%

  24条終了     3.7%(事案複雑等)

  取下げ        7.3%

  その他(却下等)  0.3%   

→約81%が調停ないし審判確定により解決

→約25%が第1回期日で解決

 

残業代を請求されている(総論)

社長)  「残業代の未払いなんて、請求する方が悪い」

      「会社の言い分はほとんど通らない」

Q「この後どうなりますか?(どうすべきですか?)」

cf 通常訴訟:原告勝訴2割、和解6割、被告敗訴2割、 と言われている

  • 労働事件:会社側に不利?

長時間労働のタイプは大きく2つに分かれる。

1 「客観的に」不誠実な請求(ダラダラ残業)・・・ソフトワーク

2 「客観的に」正当性が否定し難い請求・・・ハードワーク

それぞれを念頭にした対応

決して楽な争いではないことは事実であり、見立てが重要 それには各論の分析(強弱)+周辺ファクターの考慮→方針決定

 

(各論)①管理監督者

1.管理監督者

  深夜割増は除外なし

  裁判実務における要素(菅野)

 ①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限

 ②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること

 ③一般の従業員に比し、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇(基本給、手当、賞与等)

  • 著名事件日本マクドナルド事件(東京地判平20.1.28)

 裁判例でも肯定例に比べ否定例の方が圧倒的に多い

  ∟残業代事案が「勝てない」と思われる一つの要因

色々な要素が影響するが、「プレーイングマネージャーかマネジメントオンリーか」(①、②)、待遇(残業代を支払わなくてよい程度の待遇か③)を究極的には重視

 

プレーイングマネージャー、低待遇は管理監督者性が否定されるリスクが高い

 

・実際の適用性(ある会社の法人営業部長の事例)

①職務内容・権限

  • 「部長職」として任用、
  • 開発部部長として広範なエリアの営業開発全般の職責、
  • 経営幹部をメンバーとする部長会議等に出席、
  • 部下の経費管理や部下の時間外労働申請の決済といった労務管理。

②勤務態様

  • 出退勤について当社から厳格な制限を受けていなかった、
  • 遅刻や早退等を理由として給与が減額されたことも一切なかった、
  • 部下の従業員の時間外労働の申請を決済する側の立場にあった、

③待遇

  • ヘッドハンティングを通じて経営幹部たる部長職として迎え入れ、
  • 当社の従業員の中でも年俸トップ
  • *給与は「基本給一本」だった(相当にリスキー)

 

ちなみに

  • 裁判例でも肯定例に比べ否定例の方が圧倒的に多い
  • この争点(抗弁)オンリーは相当にリスキー
  • 理由の一因:交渉や裁判では、「請求を認める」訳にはいかない。
  • さしたる抗弁がないが、残業代を支払っていない場合、「管理監督者」、「手当」(あれば)等を主張するほかない
  • 見通しがよくなく、交渉のカードにすらならないのであれば、争点を増やすことばかりが正解とは限らない(裁判官の心証、争点の集中)

他の争点(固定残業代、労働時間性等)を主張できることが重要

 

(各論)②「(業務指示に基づく)労働時間性」

  • 労働者側:労働時間の主張(タイムカード、ICカード等。「ざっくり主張」も)

タイムカード事例における裁判例の表現例

  • 「タイムカードに記録された出社時刻から退社時刻までの時間を持って実労働時間と推定すべき(三晃印刷事件・東京高判平成10.9.16)
  • 「タイムカードの打刻時間は出勤、退勤時刻をほぼ正確に示すものと言うことができ、タイムカードは労働時間を端的に立証する信用性の高い証拠資料」(デジタルリサーチ事件。東京地判平成22.9.7)

裁判所

  • 労働時間の分析は正直面倒である(「当事者間で詰めて」)
  • タイムカードがあるような場合、「タイムカードが実労働時間と異なることを示す特段の事情がない限りは、タイムカードの記載によって実労働時間が推定」と宣言して、争点整理(審理の省エネ)する傾向があることは事実
  • ただし、それとて「推定」であって、個別具体的な反論は検討の余地あり

 

会社側:認否を行う上での観点

ア そもそも労働とは言えない時間

①通勤時間:あまり議論は少ない(直行直帰含め)

②移動時間:原則的に議論は少ないはず(移動中の物品監視等(昭和23年3月17日基発第461号)。しかし、むやみに認めている(会社が争っていない)ことも多い。

*「会社の車両を運転して訪問した場合」 有力説:一般の交通機関の利用と同じ場合には、交通手段の利用中と同一に評価しうる

③休憩時間 *待機時間 *仮眠時間

*大星ビル管理事件(最判平成14年2月28日):「労働を離れることを保障」

④自宅での待機時間  * オンコール(Dr)

裁判官の心象風景: 出勤し、審理し、判決書く(会社、自宅)

              裁判官の裁判所での宿直(令状当番)

 

会社側:認否を行う上での観点

イ 労働といいえても、指揮命令によるか疑義があるもの

①早出

 「始業時間から就労指示」のが原則(激務でない限り、割と通りやすい)

②事前申請許可のない残業、休日出勤

  • 事前許可:本来、指揮命令に基づかないはずだが、厳格に運用していないと形骸化の指摘を受ける(そもそも、許可書が1枚もない)
  • 残業禁止命令(サンプル):具体的な残業禁止命令に反した就労について指揮命令下の労働時間性を否定(神代学園ほか事件(東京地判平成15.12.9)、神代学園ミューズ音楽院事件 

実際の裁判所の判断は、業務量の過多、期限のある仕事かどうか(その日に行う必要があるか、就業開始後で足りるか)、成果物を業務使用していたか、知っていて黙認していたか、といった要素を重視している

 

→タイムカードを全否定することは現実的ではない

  • まずは「タイムカード≒在社時間≠労働時間」を説得する
  • 「労働」、「業務指示」といった観点から控除できる点がないか個々に検証

 例:「夕方過ぎに職場外で30分程度夕食を取っていた」

  「タバコ休憩を1日に30分程度。30分控除」

  「通院していた」

  「電車の都合で待機していた(始発等)」

  「別の同僚と一緒に帰るために待機していた」

  「PCのログ履歴」   *ある事業所(ワンオペ)の早出、早退の事例

  「サイトの閲覧履歴」(PC内、専用のモニタリングソフト)

  「業務に無関係なメール」(アウトルック、ウェブメール)

  • 仕事の実態を浮き彫りにし、業務量・繁閑・期限の有無・1日のタイムスケジュール・シフトなどを可視化(=ダラダラ残業。ソフトワークに有効)

∟ホームランは難しいが、ヒットの積み重ね

 

(各論)③固定残業代制度

労基法37条所定の計算方法に代わる定額支給。一定要件具備で有効(小里機材事件最判昭和63年7月14日他)。

①定額残業代部分が、それ以外の賃金と明確に区分されていること

(「基本給に含む」)といった規定は不可

②定額残業代部分には、何時間分の残業代が含まれているか明確に定められていること

 Q 基本給30万円には、1カ月20時間分の時間外労働手当が含まれる

③時間外労働が②を超えた場合、別途差額を支払うこと

メリット

①残業代請求に対する抗弁(既払いの抗弁)

②時給単価の減少

デメリット

①残業代の支払として有効性が認められないと、抗弁不成立(支払損)かつ時給単価増加というダブルパンチを受けるため、慎重に導入する必要がある。

→導入後も、「不足分の精算」を適切に行う必要がある

*繰り越し規程(内払規程)の有効性 (サンプル)

  TPOを選ぶ(会社の姿勢)

  「翌月まで」に限られる、といった見解もある 

 有効とした裁判例

 SFコーポレーション事件(東京地判平成21.3.27)

 

給与規定17条

1 管理手当は、月単位の固定的な時間外手当の内払いとして、各人ごとに決定する。

2 第16条に基づく計算金額と管理手当の間で差額が発生した場合、不足分についてはこれを支給し、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができるものとする」

 

(各論)④事業場外労働(労基法38条の2)

要件

(1)労働者が労働時間の全部または一部について事業場の外で労働に従事したこと

(2)使用者が労働時間を算定し難いこと

*(2)の要件は非常にハードルが高く、阪急トラベルサポート事件最高裁判決(平成26年1月14日。ツアー添乗員)でも否定。肯定例は極めて限られる。

在宅勤務者なども考えられるが、ITも進化した中、ますます否定傾向

(各論)⑤裁量労働制

  • 導入の要件が厳しく、実務では積極的には利用されていない
  • 専門業務型裁量労働制について、適用を否定

プログラミング業務につき、エーディーディー事件(大阪高判平24.7.27)

税理士資格のない者の業務につきレガシィ他事件(東京高判平26.2.27「税理士の業務」を否定)

 

(各論)⑥その他(一部支払い・和解の抗弁)

  • 実際の事例

 (任意交渉の中で、一方的に、一定額を「送金」したもの)

 「合意するなら受領してかまわない。合意に応じないなら1週間以内に返金」を条件とし、合意書同封で送付、送金

裁判所

  • 明示黙示の合意の有無を議論

<メリット・デメリット>

デメリット:キャッシュ先行

メリット:

  • 訴訟へ踏み切るハードル(費用対効果を下げる)
  • 特に集団の場合など
  • 付加金・労基署への影響

 

(各論)⑦付加金

  • 裁判所の裁量的命令(労基法114条)

  文言上、裁判所の命令の発令があって初めて義務が生じる(たまに、任意の交渉で請求をしてくる人もいるが)

cf 労働審判≠判決・・・付加金の請求は認められていない。ただし除斥期間の関係で言及

  • 使用者による違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等を考慮
  • 以前より、肯定する例が多くなっている傾向と言われている
  • ダブルパンチを食らわないよう、和解交渉では注意

 

(各論)⑧反訴

  • よくある事例

 「経理申請の不正(不当利得返還請求)」

 「損害賠償」

  • 相殺の抗弁制限があるので、別訴・別請求、関連事項
  • 反論が乏しい場合の苦肉の策のことも少なくないが、調査の過程で不正が見つかることも。あわせて懲戒権発動も(不当利得返還請求、退職金返金請求)。

 

(各論)⑨刑事事案

  • 監督官

  送検に積極的

  送検数は評価・査定に影響

  東京と大阪競い合っている

  • 検察官

  興味が乏しい人も少なくないと言われている

  罰金事案

  ただし、実際、法人、社長、直属の上司の送検事案あり(cf電通事件)

  • 立件が楽な事案(注意しなければならない事案)

  36協定の中でも「1日単位」の問題

  1日単位の場合、立件リスクが高い

  • 固定残業制の有用性

超過しそうな場合は、最終的には残業禁止命令、自宅待機も