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運送業の残業代紛争と予防

Ⅲ 残業代請求対策

1 残業代問題を放置した場合

  • 何らかの事情によって動機づけられた従業員(ドライバー)から多額の請求を受ける可能性(金銭的ダメージ)
  • 周囲の従業員への影響(モラル、士気の低下は避けられない。周囲も「立ち上がる」ことも少なくない。それに伴い、退職を誘引する可能性もある。特に離職率が高く、常に人手不足である運送業は、転職も比較的容易であるため、人材流出のリスク
  • 判決、厚労省による違反事例の公表、インターネットへの書き込み等による風評被害

2 解決プロセス(手続区分) 

「ステージ」が上がると解決コスト(キャッシュ・時間)が上がる

<労働働審判の運用と実情>

  • 回数制限(原則3回まで。労働審判法15条2項)・・・平均70日
  • 申立手数料 民事調停に準ず(印紙代1~3万円程度。例:500万円請求でも1万5000円程度) 
  • 残業代請求事案は、本来「なじまない」と言われていたが(座談会、山口均裁判官)、実際は数多く申し立てられている。
  • 終局事由 (2009年~2013年 1万4952件)

 →約81%が調停ないし審判確定により解決

 →約25%が第1回期日で解決

   調停成立     70.4%

   労働審判     17.8%←異議率60.5%

   24条終了     3.7%(事案複雑等)

   取下げ        7.3%

   その他(却下等)  0.3%   

  • 東京で年間1000件、全国で3000件程度の申し立てがあり、高止まり

3 紛争発生時の具体的な対応策

  • まず(A)社内(表面上は代理人付かない)での解決を図る
  • 代理人が就かない状況での解決がベスト(解決水準等)
  • 根も葉もないような場合を除き、「代理人」を強調する必要はない(「こちらも代理人(もしくは労基)」となる可能性が高くなる。
  • 各論点の強弱を分析(「見立て」)する。紛争の本質は「適切な」コミュニケーション不足(≒パワハラ)。適切なコミュニケーションをとって、無血(キャッシュアウトなし)で解決のことも少なくない。
  • (B)代理人が就いた場合でも、「見立て」に基づき早期合意解決が基本(守秘義務条項付) 完勝にこだわるとリスク増
  • (C)労働審判や(D)訴訟まで発展した場合でも、和解解決が基本
  • 合意解決時の解決名目は「解決金」。 
  • 周囲への説明:「弁護士費用」 (相手方?、会社側?)
  • なるべく細かい金額としない (計算式を探らない)
  • 方針のポイント(まとめ)

1 勝訴見込(論点ごとの強弱分析)

 現実的に主張が通るものは少ない(労働時間、固定残業代等)

2 ステージごとのコスト分析

  解決コスト+手続コスト+所要時間・ストレス(生産性の低下)

3 その他リスクの考慮

  • 敗訴リスク(元本、損害金、+付加金リスク)
  • 風評リスク(判決公表。労働事件名≒会社名)
  • 他の従業員・退職者へも拡散(訴訟の併発、離職増)
  • ネット上にも拡散→採用難・労基目線

 ∟「早いステージ」の「合意解決」に勝るものはない

4 紛争予防にあたっての具体的な対応策

  • 現実的には、変形労働(1か月単位等)以外に以下の整備が具体策

  ①労働時間の精査(過剰なカウント、支払いをしない)

  ②固定残業代の導入

  • ①「労働時間の精査」(過剰なカウント、支払いをしない)

ex手待時間と休憩時間の峻別(会社側でも管理・把握)

・「労働の場所にいる時間」

 →在社時間をまず把握

 →在社時間の内側に労働時間が原則

  時刻で把握 入と出の時刻をまずは把握

 

 「手待時間」

 例:日曜(非出勤日)に10分間クレーム処理

 例:週末の上司からのメール

  「月曜開封」と付けている会社も

 

  • ②固定残業代の導入

最高裁の示す要件を確実におさえる(就業規則(別紙例)+個別契約)

ただし、昨今は、風当りの強い面もあるので、導入する理由、時間数設定、運用をきちんと行う

*繰り越し規程(内払規程)の有効性 (サンプル)

  TPOを選ぶ(会社の姿勢)

  「翌月まで」に限られる、といった見解もある 

 有効とした裁判例 SFコーポレーション事件(東京地判平成21.3.27)

 

1 管理手当は、月単位の固定的な時間外手当の内払いとして、各人ごとに決定する。

2 第16条に基づく計算金額と管理手当の間で差額が発生した場合、不足分についてはこれを支給し、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができるものとする」

 

(要約)

  • 具体的な対応は、①ルール整備、②運用だが、どの業種であっても、最終的には③生産性向上が不可欠となる。
  • 「生産性??」

「早く走れば速度違反、多く積めば過積載

  • 国土交通省「トラック運送における生産性向上方策に関する手引き」

  労働環境

  • 所得:全産業480万円/(大型422万、中小型375万)
  • 労働時間:全産業2124時間/大型2592時間、中小型2580時間

 生産性:

  • 実働率、実車率、積載率の向上
  • 積卸における、荷待ち時間の改善:着荷主を含めた荷主の協力は不可避
  • 「運賃」の範囲の不明確性

「トラック運転者労働条件改善事業」

荷主企業と運送事業者の協力によるトラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取組事例

  • 勉強会で改善と協力への機運熟成(一例)

 「荷主企業に改善基準告示のポイント理解」

 「運送条件確認」

 「双方の業務内容の見直し」

Q 荷主が理解してくれるか?

  • 他業種での取り組み

 ・・・「働き方改革」、「長時間労働」は全業種

 の課題であり、理解が得やすい機運はある。

 

 

              <社内対応>

  • そもそも、「残業」とはどのような問題か?
  • なぜ8時間?

1886年 アメリカ労働総同盟ストライキ「8時間労働、8時間睡眠、8時間自由時間」

  • 労働時間が8時間を超過すれば、何かを圧迫する。
  • 運送業の特質上、ある程度の連続勤務、長時間労働は不可避であるが、過度の長時間労働はやはり健全とは言い難い。

<社内対応>

  • 時間と報酬が連動はするが、意味の乏しい長時間労働は是認しない。
  • 「企業の目的」、「組織の特徴」、「社会や荷主・関係者への貢献」、「サービスの内容」、「仕事の進め方」などともに、「利益の仕組み」、「賃金を支える仕組み」を必ず共有し、議論する。
  • 固定残業代性の導入・改善を含めた、就業規則や賃金体系の見直しの際には、「待遇」という観点というよりも、収益をスタートと、適正な働き方を加味した就業規則、賃金体系を構築する(規則や賃金体系を独り歩きさせないことが重要
  • Q すでに発生してしまっている残業代問題の解決方法?

 

Ⅳ まとめ

 

残業代=基礎単価(時給)×時間外労働時間数-既払い残業代

 

  • 残業代紛争の発生時 :早いステージでの早期解決に勝るものはない
  • 予防策としては、生産性向上・荷主や協力会社との調整も必ずセットの議論とし、経営合理性とドライバーの納得性がまじりあう点を模索することが重要。
  • 残業代請求対策にあたっての企業としての正当なアプローチ
  • 「残業代対策≠残業代の踏み倒し」
  • 「残業代対策=労務・収益改善」であり、そのことが人材定着への正攻法/