運送業における残業代対策の概況
1 残業代請求問題の概況
残業代請求問題
「残業代請求トラブル」と聞いて
社長様(運送業)
残業代?
- 「うちは他の業種と違って完全歩合だから残業代は込みだよ」
- 「いままだ一回も払ったことがない。残業代をちゃんと支払ってたら会社がつぶれますよ」
- 「労基? 労基にいったらクビだよね。転職先も見つからないよ」
- 「裁判まではしてこないでしょう」
1 ニュース
2017年7月
ヤマト運輸
売上高 連結:1兆4,164億13百万円(2016年)
未払い残業代230億円支払い(5万9000人)
- 発端:2016年8月神奈川県下の支店のサービス残業の是正勧告。
- 2016年12月 36協定違反、改善基準告示(1日16時間上限)違反で是正勧告
- 2017年5月 兵庫県下でタイムカードの改ざん発覚
- 2017年9月 福岡県下でサービス残業と36協定違反で会社と支店幹部社員が書類送検
有価証券報告書
- 「グループ全体の「働き方改革」を推進する上で行った社員の労働時間の実態調査を踏まえ、新たに認識した労働時間に対する一時金を計上しました。」
ニュース(送検例)
ニュース(廃業例)
参考ニュース 2018.06.01 ハマキョウレックス、長澤運輸
同一労働同一賃金に関係する最高裁判断(有期・高齢者)/
2 統計
- ~労働トラブル(総合労働相談)は9年連続100万件超
(2017年6月16日公表(平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況)
- 東京地裁へは、全国の約3分の1の労働紛争が集中(司法統計)。
- 労働裁判:「労働訴訟事件数推移(東京地裁労働部担当数)
- 東京地裁で、年間1000件程度で横ばい
- 労働審判:「労働審判事件数推移(東京地裁労働部担当数)
- 東京地裁で、年間1000件程度で横ばい
- 類型は、解雇5割、残業代3割、その他2割(ハラスメント含む)
「残業代請求?」 「うちの会社は大丈夫」
残業代請求のハードルは非常に低く、他人事ではない
健康への影響等
(公財)連合総合生活開発研究所(連合総研)
「勤労者短観」2017年11月
調査地域:全国
調査方法:インターネット調査(インテージリサーチ)
対象者:20歳~64歳
実施期間:2017年10月1日〜5日
回答者:約2000人(男性1124、女性876)
- 男性正社員の月平均の所定労働時間は42.3時間。
- 所定外労働を行った人の3割超に賃金不払い残業あり。
3 長時間労働規制に関する最近の行政の動き
- 2016年9月 電通事件(2015年12月逝去) 労災認定→遺族会見
- 2016年10月 安倍首相 「働き方改革に関する意見交換会」で電通事件に言及
- 2016年12月 「過労死等ゼロ」緊急対策決定
- 2017年1月 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(適正把握ガイドライン)改訂・社名公表(数百の社名公表が日々続いている)
- 2017年3月 時間外労働の上限規制等に関する労使合意
- 2017年6月 時間外労働の上限規制等について(建議)
- 2017年9 月 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関 する法律案要綱
- 2017年9月 衆議院解散
- 2018年5月 働き方改革関連法案 衆議院通過
4 運輸・運送業にとっての長時間労働問題
- 日本では奈良時代から平安時代にかけて地方と中央を結ぶ遠距離交易が活性化し、輸配送、保管、荷役、流通加工、包装といった基本業務、商品流通体制が確立。
- 現在の市場規模(物流17業種総合計) :約20兆円
- 1990年規制緩和 運送事業者数:約6万社
- 2012年4月の関越自動車道高速ツアーバス重大事故を受け、自動車運送事業の監査方針・行政処分の基準改正 厳格化
- 2014年1月より悪質・重大な法令違反の行政処分厳格化
- 2015年2月 北海道運輸局 トラック運転手に長時間労働をさせていたとして、30日間の事業停止(長時間労働での初の事業停止処分)
- 有効求人倍率 ドライバー職(常用・パート):2.92倍(2018年1月)
cf全業種平均:1.56倍
ドライバー職の人材不足は深刻
- 月末1週間就業時間60時間以上の雇用者割合:運輸業・輸送業18%
- 脳・心臓疾患の請求件数の多い業種:運輸業・輸送業 首位
- ヤマトホールディングス 【事業等のリスク】
(要約)
- 社会全体でも労働紛争、残業代請求は増加傾向(コンプライアンス遵守、権利意識の変化、手続や請求手法の整備、請求を支援する法律事務所の増加)
- 大企業だけの問題ではない
- 運輸・運送業にとっても長時間労働が蔓延している。
- 有効求人倍率の高止まり、心身の不調等で離職率は高い。
- 離職は残業代請求をする大きなきっかけだが、完全成功報酬を謳う弁護士事務所、「張り紙」等で請求を誘発する事務所もあり、弁護士に相談することのハードルは極めて低い。弁護士へ相談すれば、アクションに移る可能性は飛躍的に高まる。
- 人材確保、流出防止は運輸・運送業界全体の課題であるが、在籍者はもちろん、退職者からの残業代請求は、人員流出・モラル低下の大きなきっかけとなり、適切な対応と予防が不可欠。
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