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問題社員の類型と弁護士が考える対応・対処法

~近時の傾向を踏まえた、押さえておくべき問題社員対応~

 

問題社員の類型とその対応・対処法

1 勤怠不良型 

設例 A社には、勤怠不良の社員Mがいる。遅刻が多く、欠勤(無断ではないが当日の朝連絡)も毎月発生する。他の従業員もそれにつられるように遅刻や欠勤が多くなってきた。最近は仕事のミスも多く、上司に対しても反発的な態度が多くなってきたので、退社してもらいたい。就業規則はモデル就業規則を採用している。

ポイント(1)

  • 「たかが遅刻」ですまされない。職場モラルの低下のスパイラルは明らか。
  • 就業規則に表面上該当したとしても、唐突な解雇はご法度。
  • 改善の見込みを見定め、改善しないようであれば、退職手続きへ。
  • Q 注意は口頭でもよいか?
  • できれば、書面であるが、初期段階等、書面注意が躊躇される場合は、「口頭+証拠化(ex業務報告書。担当→上司)」
  • Q 裁判で口頭注意の有無を争われるとどうなるか?

ポイント(2)/

  • 何度か注意しても改善されない場合は、反省文を取得の上、厳重注意を行う。
  • それでも改善されない場合は、退職勧奨を試みたうえで、合意に至れば、書面化。
  • *辞めるのをやめたトラブル(結構ある)
  • 承諾書や連絡書面も駆使し、熱いうちに確定し、撤回させないことが重要。

 

2 労働能力欠如型(勤務成績不良)

設例

A社には、勤務態度はよく、無遅刻無欠勤であるが、とにかく仕事が遅く、成績もだせない社員Mがいる。人柄はよいが、プロジェクトの足を引っ張るので、上司や同僚からも苦情が出ている。残業が多いせいか、睡眠時間が取れていないようで、最近は業務時間中にうとうとしていることもある。上司からは退職してもらいたい、と言われている(就業規則はモデル就業規則例)

ポイント(1)

  • 労働のクオリティ不足のみを理由とした解雇は相当なハードル。

①よほど「職種限定」したようなケースを除けば、そもそも債務不履行となる「クオリティ」が明確でない(cfフォード事件(東京高判昭59.3.30、人事本部長。解雇有効)、持田製薬事件(東京地判昭62.8.24、マーケティング部長、解雇有効)・・・共通点は「職種限定+α」

②クオリティ不足の立証も容易でない。

  • 特に新入社員や若手の場合、裁判官は「指導による改善可能性」や「会社の指導不足」、「配置転換」等を容易に指摘する。

ポイント(2)/

  • 退職勧奨が奏功しない限り、退職には、長期戦となることを覚悟(数か月以上)。
  • 注意・指導を繰り返し(業務指導書、警告書等)、それでも改善せず、退職勧奨にも応じない場合に解雇。ただし、争われる可能性が相当に高いので、特に慎重な対応が必要な類型。

 

3 病気型(労働者の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失・メンタル含む) 

設例

 A社には、営業に向かない性格だったのか、数字に厳しい上司とあわない性格だったのか、 体調不調を訴え、休みを取っている社員Mがいる。当初は有給消化という話であったが、有給消化しきる前に、「診断書(病名:適応障害、うつ状態)。付記として、「メンタルクリニックの受信が必要。少なくとも2~3か月休職、療養を要する」といった記載がある)。本人からは、状況を見て内勤(総務部等)へとの希望も出されているが、A社としては、戦力とみれず、他の部署にも空きポストがないため、退職してもらいたい。

ポイント(1)

  • 昨今、メンタル不調を理由とした欠勤、休職、解雇トラブルは顕著な増加傾向。同時にパワハラが主張されることも多い。
  • 診断書自体は、精緻なもの(ICD-10等)でなければ、容易に取得できてしまうことが実態ではあるが、真にメンタル不調が悪化した場合、労災含めた最悪のケースも考えられるため、安易に考えず、特に真摯な対応が肝要。
  • Q 裁判官は「診断書」をどう見るか?

ポイント(2)

  • まずは「重症度」(薬の服用等で勤務可能か)を見極めが必要
  • 長期化する場合、A無欠勤による普通解雇、or B休職制度(休職期間満了に伴う自然退職)による対処を検討。*家族や主治医との連携も。
  • 休職にあたっては、以下の点、注意を要する。

 1 発令基準

 2 休職期間

 3 対象者

 4 給与の有無

 5 復職の判断基準、判断権者

 6 復職後の取扱い

 7 復職しない場合の取扱い(自然退職)

ポイント(3)

  • 休職期間満了時にあたっては、復職業務に留意(片山組事件。最判平成10.4.9(「・・・労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。)

・・・現場監督→事務作業の復帰の検討示唆

 

1~3勤怠不良型、勤務能力欠如型、病気型のポイント(1)

  • 勤務不良、勤務能力欠如、病気はどのような場合に解雇が有効となるのか無効となるのか、基準があいまい。
  • これらが複合的に問題となる場合が少なくない。
  • そもそもの解雇権濫用法理

 高知放送事件(最判昭52・1・31。2度の遅刻を理由とするアナウンサーの解雇事件)

 解雇権濫用法規の明文化(旧労基法18条の2、労契法16条)

 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

  • いわゆる規範的要件・・・あいまいであることは不可避
  • 労働部裁判官の分析(「白い本」「労働関係訴訟の実務」)

 

  • 白い本:・・・解雇権の行使は、①労働契約のような継続的な契約関係が労働者の債務不履行等によって破綻していることを理由に、これを将来に向かって一方的に解消する手段であって、②労働者に対して大きな人的・経済的不利益を与える危険性を有している。
  • そこで、解雇権の発動にあたっては、債務不履行的事情(債務不能的事情、不完全履行的事情)の存否という形式的観点に加え、より実質的に、雇用契約の本質から導かれる法原則(①将来的予測性の原則、②最終的手段の原則)を併せ考慮する必要がある(313頁)。
  • 実際の視点

①将来的予測性の原則、②最終的手段の原則というフレーズを使用するかは別として、これらの視点を考慮した段取り、書面(業務改善書、始末書、解雇理由証明書、反論書面等)を準備していくことが有効。

  • 実際の労働審判案件(降職、配置転換、注意指導の末に解雇した事案)
  • 要は、「ぎりぎりまで説得し、何とか働いてもらおうと努力したか」、早くやめさせようとしたかを見られている。

 

4 セクハラ・パワハラ型

設例1

  • A社には、自部門のノルマ達成のため、部下に厳しい成果を求め、成果が上がらなければ、厳しく指導する課長M1がいる。M1は自身としては営業成績を上げており営業トップである。よく指導を受けている社員M2もいろいろな落ち度はあるようではあるが、M2は疲弊してしまい、無断欠勤に至り、状況の報告が上がってきた。どのような対処が妥当か。

設例2

  • また、M1は、気に入った部下の女性社員を食事に誘う癖があり、ある女性社員から人事部長に「困っている」と相談を受けた。どのような対処が妥当か。

ポイント(1)

  • パワハラ=法律上の定義はない(cfセクハラ、マタハラ)

起源:2001年に東京のコンサルティング会社クオレ・シー・キューブが創った和製英語

  • 厚労省職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議WG

 「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の 地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」(平成24年1月30日)」

  • 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書(平成30年3月30日)
  • ポイント(2)<パワハラ>

・権限を背景に、仕事に「見せかけて」苦痛を与える故、たちが悪い

・過労死事案の背景に、ほぼ例外なくハラスメントの存在

 (「社長は過労死しない」)

・円卓会議WG・報告書のあげるパワハラ行為類型

 ① 身体的な攻撃 暴行・傷害

 ② 精神的な攻撃 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言

 ③ 人間関係からの切り離し 隔離・仲間外し・無視

 ④ 過大な要求 業務上明らかに不要なことを要求

 ⑤ 過小な要求 仕事を与えない等

 ⑥ 個の侵害 私的なことに過度に立ち入ること

ポイント(3)

有無判断:被害者の悪感情のみでハラスメントが認められるのではない

 第三者によるハラスメント行為の客観的な確認

  • ハラスメントのある環境は不思議と不正も生まれやすいといわれている

 <ハラスメントが起こりやすい関係>

 上司と部下、正社員と派遣社員、正社員とパートタイマー・契約社員

 加害者には加害の意図がなくても、被害者は関係性の中で拒絶できず、強い被害に結びつきやすい  ex 食事の誘い

  • ハラスメントは自分に自信のある管理職・経営者・研究者が陥りやすい。自分の価値観の押し付け。相手の人格否定。

ポイント(4)

  • 事案の見立てが他の問題社員類型に比べて難しいケース(1対1のケースが多く、かつ、人それぞれの思う「問題レベル」もかなり異なる。Cf J事務所の契約解除問題)
  • 事実関係の調査→事実認定と評価(把握。5W1H。だれが加害者・被害者か)→対応方針決定
  • 裁判官:事実認定の基本スタンスは、「動かしがたい事実・証拠+自然なストーリー」。供述にせよ、客観証拠にせよ、事後争われた場合を想定し、「証拠ベース」の事実認定。
  • 調査にあたっては、プライバシーにも配慮。
  • ポイント(5)
  • 処分各種関係、ファクターの考慮

  • ポイント(6)
  • 懲戒処分

 譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇等

  • ファクター:①動機、態様、結果、②故意・過失の度合い

       ③職位・職責、関係性、④他の従業員、社会に与える影響

       ⑤過去の懲戒処分歴、⑥その他(日頃の様子、事後対応等)

  • ルール:合理性、相当性、公平性、適正手続(弁解の機会)
  • 民事 違法性判断基準(福岡高裁H8.25)

原則:他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は違法(*診断書立証)、例外:その行為が合理的理由に基づき、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合、正当な業務行為として、違法性が阻却される場合がある。

  • ポイント(7)/
  • 再発防止(ハラスメントを起こさないためには)
  • 意識レベル

 「ハラスメントを行っている」と認識している加害者はいない(無意識)

 「相手方の意に反する「業務の適正な範囲」」の認識の困難さ

 むしろ「相手に受け入れられた」と誤認している事例多数

 ☑職場の人間関係に個人的な利害・感情を持ち込まないこと

 ×「彼は営業のエースだから」

  • +被害者が、被害を積極的に申し出ることが可能なことが予防

にも事後措置にも重要(外部専門家のコンプライアンス通報窓口等)

 

5 残業型

設例

 A社では、残業は許可制である(就業規則でもそう書かれている。いわゆる固定残業代制度は採用していない。)。仕事の効率が悪く、恒常的に時間外にも在社する非管理職の社員Mがいたが、上司はMに対し、「会社に残るのは結構だが、必要な業務をせずに居残っているだけの時間については残業の申告はしないように」などと通告していた。その後、A社を退社したMは未払いの残業代があるとして支払いを求めてきた。A社では、タイムカード等を用いた出退勤管理は行われていなかった。

ポイント(1)

  • 労基法上の労働時間:労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督のもとにおかれている時間(三菱重工長崎造船所事件。最判12.3.9)。
  • 2017年1月20日「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(適正把握ガイドライン)。実務への定着の可能性(残業代訴訟を含め)
  • 裁判官は、半ば「在館主義」をベースに認定しがち。労働時間を把握せず、時間外労働を放置しているような会社相手には「黙認」を容易に肯定(exゴムノイナキ事件、大阪高判平成17年12月1日)

ポイント(2)

  • ダラダラ残業に対する対応としては、「固定残業代制度導入」の他は「長時間労働の抑制+時間管理」が正攻法
  • 必要に応じて残業申請通知書、残業禁止命令書(別紙)
  • 就業規則上の工夫(別紙)
  • 時間認定にあたっての裁判案件における近時の工夫

 きょうとソフト(ex法内残業や特別割増率には未対応)

 サンプリング方式(長期間)

 チャンピオン方式(原告複数)

 

6 IT・情報・営業秘密型

設例

インターネット上の掲示板サイトに自社(A社)を誹謗中傷する内容の書き込みが書かれているが、社内の内部の者でしか知りえない内容も書かれている。どのような対応をすべきか。

 

7 私生活上の問題行動型

設例

 A社には、酒癖の悪い社員Mがいる。営業成績もあまりよくなかったが、その点だけで退職を求めるほどではなかった。ある日、職場の同僚と酒を飲み、喧嘩をし、平手で同僚を殴ったことが発覚した。会社はどのような対応をすべきか。(懲戒規程はモデル就業規程に準じている)

(「いずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止、又は懲戒解雇とする・・・素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。会社内において刑法その他刑罰法規の架空規程に違反する行為を行ったとき。私生活上の非違行為や会社に対する理由のない誹謗中傷等であって、会社の信用を損なったとき)

ポイント:「社員の私生活の乱れが企業秩序を乱しているかどうか」

  • 傷害の程度が重く、新聞やインターネット等で報じられたようなケースは懲戒解雇などもありうる。
  • その程度でない場合、傷害の程度、示談、反省、従前の懲罰や他例との均衡、業務上の支障等の諸般の事情で判断。
  • 参考(けんかに加わり第三者を3、4回殴った例で懲戒解雇無効(日本農薬事件佐賀地判昭和51.9.17)
  • 参考(人事院 懲戒処分の指針平成28年9月30日)

 

8 参考(「役員」類型)

 設例

 A社には、子会社B社(A社が100%株主)がある。許認可の関係もあり、B社の代表取締役はA社の社員Mを任命している。Mにはいろいろな問題があり、A社を退社することになったが、B社の取締役の辞任届を提出しようとしないので、株主総会の解任決議によって解任しようと思うが、問題ないか

(会社法339条:役員員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。)

ポイント

  • 取締役解任自体は可能だが、「正当な理由」がない場合、損害賠償請求を受ける可能性がある。
  • 「正当な理由」は、思いのほかハードルは低くない。
  • 「損害」は、「役員報酬×残存期間」が基本。

 「取締役の任期10年」は甚大なリスク。

 「任期を定めていない有限会社」も非常にリスク

  • Cf 任期を事後的に設定した場合や組織変更した場合・・・
  • 出向契約による対処(自動退任条項)